将棋

ベイズ統計モデリングを使って藤井聡太と全盛期の羽生善治を比べてみた②

はじめに
前回は年齢による実力の変化を考えずに各騎士の実力を評価しました。年齢による実力の衰えは明白であるため、このモデルで異なる世代の棋士の比較は正当ではありませんでした。

その後、インターネットで検索をすると、統計モデリングでの棋士の順位付けをしている記事がいくつかありました。[1][2] また、stanの書籍にも同様な手法が載ってます。[3] しかし、年齢効果による実力の変化を取り入れたモデルはまだないようですので、次はこの変化をモデル化して、世代をまたいで実力を比較できるモデルを構築してみます。一見、実力をローカルレベルモデル等のノイズ入り時系列モデルで表すことが出来そうですが、それだけでは新しい世代が有利なモデルのままになります。年齢による実力の増減を別個に取り入れる必要があります。

データ
用いるデータは、前回の記事「ベイズ統計モデリングを使って、藤井聡太と全盛期の羽生善治を比べてみた①」と同じです。

年齢効果ありのモデル
モデルの仮定は前回の(仮定1)は変更されて、プロ入り時の実力がガンベル分布に従うことにします。本来はこちらの方がしっくりきます。また、各年齢における平均的な実力の変化を求め、各棋士の実力の変化はその周りに正規分布とします。平均的な実力の年齢変化量は平滑化トレンドモデルで求めます。以上のモデルを数式で表すと、次のようになります。 

年齢効果なしのモデルと異なる点は、実力cには年齢に関する添え字が付いたことと、実力の年齢効果に関する最後の2式が加わったことです。c_{n,y0}は棋士nのプロ入り時の年齢y0における実力です。c_{n(g,0),y(g,0)}は対局gにおける年齢y(g,0)の敗者n(g,0)の実力を表します。同様に、c_{n(g,1),y(g,1)}は勝者に関するものです。Tr_{y}y才のときの平均的な実力変化で、\sigmaは個別の実力変化の標準偏差です。\sigmaの時間変化を考慮したモデルも試したところ、ほとんど時間変化はなかったので\sigmaは年齢に依らないとしています。

年齢効果
上のモデルより求められた平均的な年齢効果は次の図になります。

14歳での実力を0としています。平均的には、25歳で実力のピークを迎え、その後は加速しながら実力が低下します。棋士のプロ入りの平均年齢は24歳22歳なので、実力のピーク付近の3年前ぐらいにあたります。平均的には50代前半で、中学時代の実力を下回るようです。55歳が引退の平均年齢ですが、この年齢ではほとんどの棋士は、プロ入り直後の若手棋士に敵わないことになりそうです。プロ入り後もなかなか厳しい世界です。

棋士の実力
各棋士の実力のピークを次に示します。

年齢効果なしの結果では、実力は若い棋士ほど有利になりましたが、ここでは時代に依らずに公平な実力評価を行えてそうです。歴代の4位までは、羽生善治、藤井聡太、中原誠、大山康晴の順になりました。この4棋士の実力は飛び抜けてます。彼らは数十年に1人の逸材と言えそうです。次の図で、彼らの実力の年齢変化を見てみます。

半透明の帯は50%予測区間です。つまり、50%の確率で実力がこの範囲にあります。実線は予測の平均値になります。29歳の羽生棋士が全棋士で1番です。藤井棋士は17歳までのデータしか無いにも関わらず、羽生棋士のピーク実力にせまるまで成長しています。羽生棋士は20代前半から40代前半まで高い実力をキープしています。藤井棋士のプロ入り直後の実力(\c=5.55)は飛びぬけていて、ガンベル分布のかなりの袖に位置し、上位0.39%に相当します。つまり、数百人に1人の逸材としてプロ入りをしています。強いはずです。中原棋士、大山棋士の実力も負けていません。大山棋士は40歳前後で実力のピークを迎えていることは驚きです。必ずしも、20代でピークでもないようです。

次に、上位の40位までの棋士の実力変化を載せます。

5,6,7位には現役中堅棋士の豊島将之、渡辺明、永瀬拓矢が入っています。渡辺棋士は20代後半に一度ピークに達しその後に急落しますが、30代半ばで復調しています。30代でも訓練次第で実力は延びるようです。続いて、8,9,10,11位には4人連続で森内俊之、佐藤康光、丸山忠久、郷田真隆の羽生世代が入っています。羽生世代がその後の将棋界の実力を押し上げた可能性がありそうです。

まとめ
年齢効果を入れることで、世代をまたいでの棋士の実力を比較できました。歴代ではピーク時の羽生善治の実力が最も高く、まだ18歳に成りたての藤井聡太の実力が次点でした。現時点での実力は藤井棋士が羽生棋士を3程度上回っており、直接対決では藤井棋士が9割勝つことが予想されます。これまでの対戦成績は藤井棋士の4勝0敗のようです。更に、平均的には25歳まで実力が延びるため、藤井棋士は間もなく羽生棋士の全盛期を上回り、誰もが未到達の領域に達することがほぼ確実です。

引用先

[1]http://statmodeling.hatenablog. com/entry/kishi-rating
[2]http://kazufusa1484.hatenablog. com/entry/2017/08/09/000943
[3]松浦 健太郎, StanとRでベイズ統計モデリング (Wonderful R), 共立出版(2016) 

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